第6巻1019番歌はこちらにまとめました。
第6巻 1019番歌
巻 | 第6巻 |
歌番号 | 1019番歌 |
作者 | 作者不詳 |
題詞 | 石上乙麻呂卿配土左國之時歌三首[并短歌] |
原文 | 石上 振乃尊者 弱女乃 或尓縁而 馬自物 縄取附 肉自物 弓笶圍而 王 命恐 天離 夷部尓退 古衣 又打山従 還来奴香聞 |
訓読 | 石上 布留の命は 手弱女の 惑ひによりて 馬じもの 縄取り付け 獣じもの 弓矢囲みて 大君の 命畏み 天離る 鄙辺に罷る 古衣 真土の山ゆ 帰り来ぬかも |
かな | いそのかみ ふるのみことは たわやめの まどひによりて うまじもの なはとりつけ ししじもの ゆみやかくみて おほきみの みことかしこみ あまざかる ひなへにまかる ふるころも まつちのやまゆ かへりこぬかも |
英語(ローマ字) | ISONOKAMI FURUNOMIKOTOHA TAWAYAMENO MADOHINIYORITE UMAJIMONO NAHATORITSUKE SHISHIJIMONO YUMIYAKAKUMITE OHOKIMINO MIKOTOKASHIKOMI AMAZAKARU HINAHENIMAKARU FURUKOROMO MATSUCHINOYAMAYU KAHERIKONUKAMO |
訳 | 石上布留(乙麻呂)の君は美しい女性に惑い、まるで馬のように縄を取り付けられ、獣のように弓矢で囲まれ、大君の命令に従って、遠い辺鄙な国に下って行かれる。古い布を打ち返すような真土の山から旅立たれ、もう都に戻られないかも |
左注 | – |
校異 | 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌 |
用語 | 雑歌、石上乙麻呂、流罪、久米若賣、密通、天平11年、年紀、土佐、高知、同情、歌語り |
解説
題詞に「石上乙麻呂卿、土左國に配流された時の歌三首と短歌」とある。乙麻呂は左大臣麻呂の第三子。土左國とは今の高知県のこと。乙麻呂が土佐に配流されたのは天平11年(739年)。久米若売(藤原宇合の妻で、737年に夫が亡くなっている。)と不義密通(不倫のこと。当時は既婚者と関係をもつことは許されない。)をしたとの罪を問われたもの。
歌に「~帰り来ぬかも」と乙麻呂が京に戻って来ないかもとある。ところが、天平13年(741年)に大きな大赦(罪に問われている人達をもう一度見直して、無罪にするかどうか判断する。)が行われた。その後の天平15年(743年)に乙麻呂は従四位上に出世し、その後も出世を重ねている。
実は当時天皇の政治に不満を抱いていた藤原広嗣がクーデターを起こし、鎮圧されたという経緯がある。
乙麻呂は藤原広嗣の家(藤原式家)に関わっているどころか、政治的な有力者であったことから、政治から一時的に離れてもらったという見方がある。
「馬じもの」と「獣(しし)じもの」は「~かのように」という意味。「真土の山」は和歌山県橋本市の山と言われている。